今年度一杯をもって学長職を退任し、駿河台大学を離れることになりました。
まず、自分の命と体を大切にしてください。ほんの僅かな不注意で短い人生を閉じることのないように、心身の健康を損なうことのないようにしてください。皆さんの命と体は、皆さんだけのものではありません。ご家族や友人、関係の方を悲しませないでください。これからの人生では苦しいこともあるでしょうが、それ以上に充実した人生が待っています。そのときを信じて、毎日を大切に過ごしてください。
次に、本を読んでください。ネット社会では必要な情報は簡単に手に入るようになりましたが、それはたんなる情報に過ぎません。大切なのは、その情報の意味を理解し、活用することです。言い換えれば、自分で考え、整理し、検討することです。読書は、そのように主体的に考え、行動する力を付けるのにもっとも適した方法です。いわゆる「古典」といわれる書物には、多くの人が共感し、生きる指針となる、時代を超えた知恵と気持ちが含まれています。古典を読むことで、その言葉に感動し、内容を理解し、意味を考える力を身に付けられます。時間がかかってもいいので、じっくり腰を据えて読んでみてください。
皆さんが教科書で見たような文学や思想、社会科学、自然科学など、どのような分野でも結構です。自分が歳をとって、「大学生のときに読んだあの一冊」という本を読んでみてください。そのための時間は、今しかありません。この貴重な時間を、自分の一生の宝になる「ものの見方、考え方」を身に付けてください。
第3は、他の人の意見、価値観を大切にしてください。いうまでもなく、世の中には択一式の試験問題のような、単純に正解が見いだせない事柄の方が多いのです。他の人と意見が異なるとき、なぜそのように考えるのか、自分がその人の立場になったとき、どのように考えるか、もう一度振り返ってみてください。自分の考え方だけが正しいと思い込むことなく、相手の意見に耳を傾けることを心がけてください。これからの社会では、外国籍の人や異なる宗教、思想、信条の人、性的少数者の人など、さまざまな人とのお付き合いがいま以上に増えていくでしょう。そうした社会で必要なのは、白黒はっきり付けるだけが解決なのではなく、相手の意見を尊重し、共通点を探りながら解決策を探ること、すなわち「寛容な心」が大事になります。
どうか、皆さんにおかれましては、これからの社会を生きていく上で、まず自分を大切にし、自分の頭で考え行動し、他の人を尊重し共に生きていけるよう心がけていただきたいと思います。これが私から皆さんへの最後のメッセージです。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしています。