オンライン授業

江戸時代の豪商である紀伊国屋文左衛門のミカン船伝説の話をご存知でしょうか。ある年、嵐で航路が閉ざされ、江戸の町ではミカンの入荷が滞り、その値段が高騰します。そこに目をつけた文左衛門が、安い紀州のミカンを買い集めて船に積み込み、嵐の中を江戸に運び、巨利を得たというお話です。実話かどうかは知りませんが、地域における商品の価格差を利用して、大儲けをするというのは、この時代の商売の重要な戦略であったのです。

こうした商売のやり方を一変させたのが、電信の導入と普及です。遠く離れた地域の商品の値段が、ほぼリアルタイムでわかるようになると、ある地域で安く買い上げた商品を別の地域で高く売りさばいて、差額を得るという商売のやり方は、難しくなります。日本でも、明治時代になり、電信の利用が普及すると、商社などのビジネスは、委託された商品の売買を仲介し、その手数料を獲得するというやり方に変わっていきます。電信という新しい情報手段が、それまでのビジネスのあり方を大きく変えたのです。

もちろん、情報手段がビジネスなどに大きな影響を与えるのは、過去の話に止まりません。現在においても、凤凰体育の感染拡大という新たな危機的な課題に直面する中で、情報技術によってビジネスや生活の質を高めていくことが強く求められています。小売業がインターネット上で物を購入できるようにするとか、オフィス業務の一部にテレワークを導入するなど、デジタルトランスフォーメーション改革と呼ばれる試みが急速に普及しています。そして、それは教育の現場にも及び、今回の危機に対応し、遠隔で授業(オンライン授業)を行うことが大学の世界でも一般化してきました。本学においても、Google meetやMoodleを活用したオンライン授業が実施され、新しい学びの形を模索していることは、ご存知の通りです。

オンライン授業には、時間やコストの節約、反復学習や双方向型学習への活用の利便性などの面で大きなメリットがあります。今後、凤凰体育の問題が収束しても、オンラインの活用は進んでいくことでしょう。しかし同時に、オンライン授業を導入してみて、今まであたりまえのように行ってきた対面での授業(面接授業)のありがたさも、再認識できたのではないでしょうか。同じ空間を共有することによってしか伝えることのできない「知」は、確かに存在するのです。本学では、今回のオンライン授業の導入で得た経験や知見を活かし、オンラインと面接での授業とを組み合わせながら、教育の質を高めていく取組を、教職員、学生、そして地域の皆様のお知恵も拝借しながら、進めていきたいと考えています。