先日、高齢で一人暮らしの女性へのインタビューが、テレビで放映されていました。そのお宅には、息子さんから贈られたヒト型ロボット「Pepper」君が置かれていました。
この女性がPepper君の前を通ると、彼(彼女?)は「お元気ですか?」と声をかけますが、女性は返事をしません。Pepper君は「ボクってウザいですか?」と尋ねますが、女性は無視し続けています。インタビューアーが「どうして答えてあげないのですか?」と聞くと、「一度返事をするとあとがうるさいから、だまっているの」と話していました。私には、Pepper君の表情が、どことなく寂しそうに見えました。
このシーンは、なかなか興味深いことを物語っています。Pepper君は、最近、ホテルやショッピングモールなどで見かけることが多くなりました。たいへん優れた能力をもっており、それなりのコミュニケーションができるロボットですが、この女性の気持を読み取ることまではできなかったようです。贈ってくれた息子さんからすれば、一人暮らしの母親の寂しい気持ちを慮ってのことでしょうが、現代の技術では、この女性の「ウザい」との気持ちに対応するところまでには至っていないようです。
人工知能等の進歩によって、今後10年の間に消滅する職業のことが話題になっています。たしかに現在のコンピューターやロボット技術の進歩は目覚ましいものがありますが、やはり最後まで必要とされるのは、人に対する「共感」や「きめ細やかな思いやり」にもとづくコミュニケーションではないでしょうか?ベストセラーになった阿川佐和子さんの「聞く力 心をひらく35のヒント」(文春新書)には、「もし人が、『常に同じもの、常に最上級のもの』を、演奏や舞台や料理に望むなら、それはコンピューターやロボットに任せればいいはずです。そんなことを誰も望まないのは???うつろいやすい人間の本質を味わいたいからです。」と書かれています。
本学では、学生の皆さんが在学中に修得すべき力として「駿大社会人基礎力」を掲げており、そのなかに「コミュニケーション能力」も含まれています。皆さんは、ゼミや実習等の授業を通じてこの力を身につけていくことになりますが、その際には、自分の考えていること、調べてきたことをただ一方的に話すだけでなく、ゼミの仲間の興味や関心に合わせ、わかりやすく伝えようとする「気持ちをもって話す」ことを心がけることが大切です。「communicate」という言葉は、「伝える」という意味ですが、もともとは「分かち合う」という意味もあったようです。これからの社会で暮らしていくために、自分と相手の人との間で知識や技能を伝えるだけでなく、相手を尊重し、気持ちや感情を分かち合うことができるよう、人として必要な「コミュニケーション能力」を身につけていただくよう願っています。