心の贅沢

私の専門は、日本経済史という分野です。要するに日本の経済の歴史を研究しているのですが、主に対象とする時代は、近現代となります。

しかし、大学院時代には、経済史という歴史系の分野のゼミに所属していたこともあって、中世史を勉強する授業にも出席しました。その授業には、当然中世史を勉強する院生たちが集まっていて、中世の文書などを読んでいたのですが、門外漢の私には、その内容などについてあまりよく理解できませんでした。

その授業を担当していたのは、たいへん高名な先生でした。多分、中世史の研究を進めて行く上では、きわめて貴重なお話をたくさんされていたはずなのですが、残念ながら授業の内容については、覚えていません。しかし、少しお酒の入った食事会の際に先生からうかがったお話しの中には、いくつか記憶に残っているものがあります。その中でも、最近とりわけ思い出すのが、「大学院で中世史の勉強をしていても、みんながみんな中世史の研究者としての職に就けるわけではない。中世史がすぐに何かの役に立つわけではないが、そういう勉強に時間をかけて取り組んだという心の贅沢は、必ず将来にいきてきます」という趣旨のお話しです。

ここで言われた「心の贅沢」とは、何を意味するのでしょうか。おそらくそれは、目先の損得や利害から離れて、ほんとうにやりたいことや好きなことを時間をかけて行い、自分なりの満足感を得ることを指すのだと思います。最近私は、そうした満足感を得た経験が、その後の自分の歩むべき人生を選択していく際に、大きな糧になるような気がしてならないのです。

学生の皆さんは、定期試験が終わると夏休みに入ります。部活に汗を流す、旅行に行く、本を読む等など、それぞれに計画があると思います。どうか学生時代だからこそできる「心の贅沢」を思う存分行って、よい思い出をつくってください。なお、今年の夏は、特に暑いようです。体には十分気をつけて、秋学期にまた会いましょう。